脳が見ている世界の外側は,何も無い分子運動だけの世界があるだけだ。そこには,感情の概念が無い。したがって,苦痛が無い。死とは,脳が外の世界を意識しなくなる事だ。いや、そもそも生も無い。では、何があるのか?何かが存在し得るのか?答えはあるのか?

                           1 配線者
 
 俺の名前は「サイバー」脳に配線をしたブースト野朗だ。肉体改造、脳改造、果ては、そこから派生する精神改造と、何でもござれのご時世だ。まともな人間(そもそも精神改造した者は、人間と呼べるのか?)なんざ、いないご時世。そんなところじゃ俺は、かなり平均的なそこらの兄ちゃんだ。
 最近俺の周りじゃ妙な事だらけだ。誰だって寝起きはシャッキリしてたほうがいいに決ってる・・・だろ?
 妙な事の始まりってのはこうだ。朝目覚めると、頭のイカレタお医者様がこう言った。 「おはよう、これから君のお脳に配線するよ。ナニ大した事じゃない、少し「ちく」っとするだけさ、何も心配いらないよ」・・・ふん、これはかなりマイルドな言いまわしだ。実際はこうだ。

 その日俺は、西新宿にあるなじみの回転すしバー「魚雅」で、いつものように一杯引っかけていた。この店には、俺の元妻の、「遥」がバーテンとして働いている。まだ早い時間だったが、店内は客でごった返していた。俺はいつもの席に腰掛け、遥を呼んだ。
 「調子はどうだい?マイハニー」
 「サイバー、その呼び方はやめて」
 俺は、おしぼりをひらひらさせながら言った。
 「OK,OK。気にすんなよ。取り敢えずいつものやつだ」
 「ったく」
 遥は、ため息とともにカウンターの奥に消えた。
 俺は、ベルトに乗って回ってくるネタから、江戸前穴子と、イクラの軍艦巻きを取った。俺の好物だ。
 「はい」
 遥が戻ってきて、グラスに注いだ「雪中梅」を俺の前に置いた。舌触りが滑らかで、咽喉越しが良い日本酒だ。なにより香りが素晴らしい。
 「そっちは相変わらずの様ね」
 「まあね。でもこれが、しがないウイルス屋の在り様だぜ。世の中みんながハッピーってわけにゃあいかないんだ」
 「あたしたちの仲みたいにね」
 「そりゃないぜ」
 俺は、「雪中梅」をちびりとやって、遥を見た。ショートボブの髪型に、整った輪郭。切れ長の眼は、俺以外にも多くの男を虜にしてきただろう。プロポーションも申し分ない。詳しいサイズを聞いた事はないが、肉体改造が当たり前のこのご時世で遥の身体は傷物ではない・・・と言うと嘘になるか。
 実のところ、遥は性転換した元男だ。つまり、ナニを取ってからは、ホルモンの投与だけで、立派な女になったという訳。
 「今でもうまくやってると思ってるんだぜ」
 「かもね」
 ツレナイねえ。
 俺はそんな遥から目を逸らし、店内を眺めた。壁と一体化されたウォールヴィジョンが、ニュースを映していた。近頃頻発している、娼婦を狙った猟奇殺人だ。珍しくも無い。客層を見てみる。会社帰りのサラリーマンが多い。入り口に近いボックス席に、盛り上がっている一団が居た。妙にぺこぺこしている男と、でっぷり肥えたとっつあん、その秘書らしいドイツ系の女、それに黒ぶち眼鏡の男だ。肥えたとっつあんの背広の左胸に付いているバッヂには見覚えがあった。極単純なポリゴンでDNAの二重螺旋構造を抽象化したデザインだ。最近新しいDNA合成技術で躍進してきた会社の物だ。会社の名前は思いだせんが。さしずめあの一団は、商談成立後の飲み会ってところか。 
 その中の一人、女に目が止まった。イイ女って訳じゃなかったが、気になったのは後頭部のスロットだ。右後頭部、耳の後辺りに金属に囲まれた、ミニディスクの挿入口の様なスロットがある。スロットには、二つのプラスチック片が挿さっている。
 「配線者か」
 脳に電極を埋め込み、ソフトで制御する奴等だ。あの女が挿しているソフトは、恐らくアルコールの分解を促すものと、日本語ソフトだろう。
 肉体改造が当たり前と言ったが、お脳をいじくるのは頂けない。俺は、自然主義者じゃないが、こればかりは譲れない一線だと思っている。女に一瞥をくれていると、遥が横槍を入れてきた。
 「あんなのが趣味だったっけ?」
 「まさか、俺は今でもお前一筋だぜ」
 遥は、しばらく俺を見つめて言った。
 「御冗談」
 とっととカウンターの後へ下がる。
くそったれ!俺は、イクラの軍艦巻きを取って口の中へ押し込み、雪中梅で流し込んだ。今日は、とことん飲んでやる。

 前日に呑みすぎたせいもあって、頭の中で巨人が腹を抱えて転がり回ってやがった。 ・・・まあ早い話が二日酔いってやつだったわけだ。
 俺はそんな頭をシャッキリさせる為、まず目を開けた。たまげたね。俺の目の前に真っ黒な銃口があった。銃は、見た所オートマチックの35口径。弾は・・・入ってるだろう。
 銃を持っていたのは、中国人の若者だった。(俺は、国籍上は、イギリス人だが日本人と中国人の区別だけはつく。)
 その若者が、俺も驚く流暢な日本語で言った。「とっとと起きやがれ!このクソッたれ!」
 若者はシーツを剥がし、銃をしゃくって俺にベッドから出るよう指示した。俺は何が起きたか理解できないまま、ゆっくりとそれに従った。
 そのとき部屋の隅に、もう一人の男が居るのに気がついた。(実際はヘビー級ボクサーのような、がたいの良い用心棒を2人従えていたが)
 黒のスーツに身を包んだその男は、よく通ったバリトンで言った。「王(わん)、彼は君の上司になる男だ、口に気を付けたまえ」
 王と呼ばれた男は、つかの間、俺と黒スーツの間に視線を走らせ、不愉快さ丸出しの表情で銃を下ろした。同時に黒スーツが口を開いた。「ジェームス・ハンセンさんだね?」
 俺は意表を突かれた。この男はなぜ俺の本名を知っているんだ?俺は、成人してからは「サイバー」を名乗ってきた。数少ない友人にも(遥にさえ)本名は名乗ったことはない。こいつは何者であるにしても、厄介な奴だと俺の直感が言ったが、そんなことはチョロリとも顔に出さず俺は言った。
 「ああ、その通り」
 「はじめまして。私は、「周防 隆行」科学技術庁生命科学委員会の会長だ」言いながら名詞カードを差し出した。バーコード化された各種情報が印刷されている極一般的な物だ。黙って受け取る。
 「あはん」 
 「今日から君は、我々の為に働いてもらうことになる」 
 こりゃ、ますますもって雲行きが怪しくなってきた。政府が、そこそこの腕前のハッカー風情に、何の用があるってんだ?
 「ありがたいが、俺は今の仕事が・・・」
 俺が、最後まで言い終わらないうちに、周防のボディーガードの一人が、俺の顔をわしづかみにして突き飛ばした。俺は、サイドボードにしこたま頭を打ち付けた。
 ふらつく俺をもう一人のボディーガードが引き起こす。
周防が言った。
「申し訳ないが、君に発言権はないのだよ」
 クソッタレ!早く言いやがれ! 
 「君は、契約により今日から我ら日本政府の役員として、政府のために身を奉げてもらう。」
 俺は、ゆっくり右手を上げた。また殴られたくないからな。
 周防は頷いて促した。
 「俺は、政府と契約した覚えはないぜ。何かの間違いだ。あるいは人違いだと思うが?」 
 「いや、人違いではない。君は生まれた直後、両親によって日本政府に売られたのだよ」
 「なんだと?」
 「証明書もある。法的にも問題はないのだよ」
 「全く読めないな」
 これはそのときの本音だった。この男は何を言っているのだろう?日本政府は、見ず知らずの、しかも他国人を金で買っているってのか?俄かに信じられない話だが、このご時世、これ位で驚いていてはいけないのかもしれない。しかし、人身売買だと?
 このとき俺は余程まぬけな顔をしていたのだろう。周防は、やれやれだと言わないばかりに肩をすくめて王に頷いた。王は、待ってましたとばかりに銃のグリップで、俺の頭を打ちつけた。今度のは効いた。俺は、床にくず折れた。薄れ行く意識の中で俺は、周防の言葉を考えた。契約のことじゃない。王が、俺の部下になるかもしれないということだ。もしそうなら・・・覚えてやがれ!そんなことを考えながら、俺は無意識の海の中へと落ちていった。

 目覚めると、そこは病室のようだった。体がよく動かない。全身麻酔から覚めた感じだ。(本当にかかっていたのかもしれんが・・・)
 ここでようやく話が戻る。すなわち、頭のイカレタお医者様が、俺の寝ているベッドのそばに居た。
 奴は、気がついた俺に言った。
「お目覚めだね。気分はどうかね?」
 その声は、如何にも俺を心配しているようだったが、あからさまな苛立ちが感じられた。すなわち、「やっと起きやがったか」
 俺は、室内を見渡した。周防達はいない様だ。
 「どうかしたかね?」お医者が言った。
 俺は、お医者に注意を戻した。痩せ過ぎの中年男、日本人だ。垢のこびり付いた丸眼鏡を、鷲鼻に引っ掛けている。マンガに出てくるマッドサイエンティストそのものだ。白衣のネームプレートには、「仲本」とある。
 「ここはどこだ?」俺は、お医者に聞いた。
 「東京西部大学病院だよ。最近首都移転してきた」
 「あはん」
 随分前から関東地方は「トウキョウ」と呼ばれてきた。数年前からかつて「新宿」と呼ばれていた地方と、静岡に起きた新勢力「ニューネットプラン」の間で、激しいネット戦争が起き、それに負けた「新宿」が、首都の座を明渡した。つまり俺は、今静岡に居るってわけだ。
「これから君に電脳手術を行うのだが・・・君は脳についてどれほど理解しているかね?」
唐突にお医者が聞いてきた。両手を白衣のポケットに突っ込んで動かしている。落ち着きのない男だ。
 「ナニ?」
 「つまり電脳についてということではなく、生物である我々人類の脳という器官についての知識、ということだが?」
 このお医者は、俺をアホだと思っているようだが、残念でした。幾ら俺でも脳の一般的な知識ぐらいある。すなわち、ここを吹っ飛ばされるとオオゴトだって事だ。 で、言った。
 「まあ一般的なことぐらいは」
 お医者は、頷き喋り始めた。
 「脳は、ニューロンと呼ばれる神経細胞の集まりだ。我々は、このニューロンに流れる電気信号のやり取りにより動いている。しかし、この神経ネットワークは極めて薄弱だ。君も自分の能力に限界を感じたことがあるだろう?」
 お医者は、俺を「ちらり」と見て唇をゆがめた。醜い顔が、輪をかけて醜くなる。
 俺は、うんざりしながら頷いた。お医者は、満足げな表情を浮かべ、熱を込めて喋り出した。その目には、地獄の業火も裸足で逃げ出しそうな、魂を焦がす熱い火が燃えていた。
 「私が、君に施す手術は、その点を格段に、合理的に、安全に、解決するものなのだよ。ナニも心配は要らない。手術は、極簡単なものだ。一眠りしている間に君は、人を超越する!」
 そう叫ぶとお医者は、注射器を俺の首筋につきたてた。なんてこった!このお医者は、完璧にいかれていやがる!またしても意識を失いながら、俺はこのお医者を仕返しのリストに加えた。
 
 心地よい無意識の海から浮かび上がってくると、そこは、またしても例の病室だった。状況も一緒だ。ただ、今回は頭が重い。俺はうめいた。
 「お目覚めだね。気分はどうかね?」
 お医者が、前回と同じ台詞を吐きやがった。
 「頭が割れそうだ」
 「一時的なものだよ。すぐにおさまる」
ホントかよ?脳細胞全部が、俺に対してクーデターを起こしてる様だし、口を動かすどころか、モノを考えるのもシンドイぜ。
「手術は成功だよ。おめでとう、君は人間を超越した」
「水をくれ」
 お医者の戯言に付き合ってられるか。俺は、擦れ声を出した。
 お医者は、頷いて白衣の下から小さなプラスチックケースを取り出し俺の前に置き、どうぞと言わんばかりに手をひらひらさせた。
 意味がわからんが、取り敢えずそのプラスチックケースを手に取った。半透明で中は見えないが軽い。大きさは、3×7cm、厚さが3cmほどで、ディスクを入れるケースに似ている。蓋を開けると、メモリースティックのような物が5本ほど入っていた。
 「これは水には見えんが?」
 「水ではないが、君の欲求は解消できる。水色のチップを、左後頭部のソケットに差し込んでみたまえ」   
 お医者の言葉に驚き、反射的に手を後頭部に当てた。なんてこった!耳の後から水平に3cmほどの金属の溝が感じられた。指先が微かに震えた。何故か大事な物を失った気がしたのだ。大事な物?なんだってんだ。人間性?そうかもしれない、これは、タトゥーを入れるのとは訳が違う。俺は、うめいて額をさすった。・・・なんてこった・・・そこには、もう一つの溝があった。
 「ああそうだ。そのソケットこそ、今回の目玉なのだよ!詳しい説明は後にして、まず体験してみるといい。さあ、チップを差し込んでみたまえ。ああ、今持っているのは後のソケットに入れるんだ」
 正直に言おう。そのとき俺は、チップをはめる事に恐怖は感じていなかった。好奇心のほうが勝っていたのだ。俺の人間性などその程度のものだったのさ、何とで言ってくれ。
 「南無三」
 俺は、呟いてチップを後頭部のソケットに挿しこんだ。
 途端に気分が、シャッキリした。咽喉の渇きは消え、満腹感もある。頭は多少うずいたが、さっきほどじゃない。俺は、呆然とお医者を見た。奴は,にやけ顔をしながら言った。「説明しよう」俺は、黙って頷いた。
 
 「そもそも脳内配線手術は、事故などにより失った脳機能の補助システムとして始まったものだ。簡単に言えば、人工ニューロンを埋め込み、しかるべき脳細胞に電気信号を強制的に送り、生態活動を促すのだ。知ってのように、これには膨大な時間が費やされた。脳内の詳しい機能地図を作り上げるのにどれほどのものがつぎ込まれたか。しかし、そのおかげで今は正確に脳をコントロールできるようになった。理論的にはね」
 お医者は俺を見て、分かっているだろ?といわんばかりに口を歪めた。俺は、黙って頷いた。
 「人間は、偽善の塊だ。力への飽くなき渇望を持ちながら、実際に力を持つとなると躊躇する。全くもって馬鹿らしい!元々持っている能力を、最大限に生かすことがなぜいけないのか?分かるかね?これは、脱皮だよ。姿はそのままに能力は極限まで高まる。私は、その手伝いをしてるだけだというのに、世の中は見とめようとしない!」お医者は、イライラと手を振りながら俺に振り返った。
 余計な口を挟むのはやめた。お医者の後のドアの向うに、誰かいるのに気づいたからだ。背丈からすると、周防だろう。とんまめ。
 「聞いているかね?」
 「もちろん、続けてくれ」肩をすくめる。
 お医者は、一つ咳払いして続けた。
 「君には、一般的なものと、特殊なものの二種類の手術を施したのだよ。一般的なものは、脳のブーストアップだ。人工ニューロンで脳全体を包み、それを刺激することで脳細胞を活性化させる。刺激を与えるのが、先程のチップ達という訳だ。因みに君が最初に挿したチップは、満腹中枢を刺激するものだよ。チップをつけている限り君は、飢えや渇きを忘れていられる。同様に、あらゆる生理現象を無視できるチップもある。その他に、ホルモンの分泌を促し、瞬発的な怪力を生み出すこともできる。但し注意したまえ、これらの効果は、実際の生理現象を、チップが肩代わりしているのであって、生身の肉体は、飢え、痛み、疲労しているのだ。チップを外した途端に付けを払うことになる。使い過ぎはよくない。君は、チップを同時に三つまで使用できる」
 「なるほど、こりゃ便利なもんだ。チョットしたドラッグみたいなものか。使い過ぎはヤバイってとこも一緒だな」
 「気に入ってくれたようだね。だが、さっきも言ったようにこれは極めて一般的な手術であって、こんな事は私にとって当たり前の事なのだよ。それよりもう一つのソケットについて説明しよう」 
 正直そっちの話は聞きたくなかったが、これも運命か。俺は、またも黙って頷いた。
 「前頭部のソケットは、電脳空間へのアクセス用ジャックだ。専用のジャックインケーブルを使い君の脳をスキャンし、デジタル化してそれを投影することで、君の意識は電脳世界へと旅立つ」 
 おったまげた。これぞサイバーパンクだぜ。 
 「まさか・・・」
 「ナニが「まさか」なのかね。こんな事は、SF小説の中だけだとでも?フン!私を誰だと思っているのかね。人類の、正当な権利を推し進める・・・」
 「博士、後は私が説明しよう」
 興奮したお医者の戯言は、不意に入って来た周防の言葉にさえぎられた。正直これには助けられた。イカレタお医者の戯言は、うんざりだぜ。お医者は、文句を言いたげだったが、周防のボディーガードが入ってきたのを見てドアから出て行った。だがココからが本番だ。周防は、2人のデカ物を引きつれてベッド近くのいすに腰掛けた。
 「気分はどうだ?」
 全く、何回同じ言を言われなきゃならないんだ。
 「悪くない。ドタマを殴られて、無理やりお脳に配線させられたにしてはな」半分うんざりして俺は答えた。
 「結構。では先程の続きを話そう」
 勝手なもんだ。まあいいさ、どうせ俺には選択肢はないんだろ?
 「先程博士が言ったように、君には特殊な電脳配線手術を受けてもらった。同じような配線を施されたものは、世界的にも少ないが、その中でもかなり・・・うむ、画期的なものだ」周防は、火の点いていない葉巻をもてあそびながら言った。
 「あはん」画期的ね・・・どれだけのものかね?
 「今言ったように、自らの脳をデジタルスキャンし、電脳空間へアクセスする者が少数ながら存在する。彼らはウェブスパイダーと呼ばれている。彼等については、君の方が詳しいだろう?」
 俺は頷いた。ウェブスパイダーは、電脳カウボーイだ。広大な電脳空間を、自由に駆け巡る。勿論、それなりの腕はなけりゃならない。だいたい自分のお脳に配線して、意識ごと電脳に浸りきろうなんざ、よっぽどのハッカーじゃなきゃ考えつかんだろう。やつ等は、四六時中電脳に浸って、其処等のプログラムに干渉したり、ただたゆたっている、基本的に害のない奴等だ。言ってみりゃ、電脳ジャンキーか。
 「君は、他のウェブスパイダーと違って、電脳空間へのアクセスに、一切の制限を受けない。ジャックインケーブルは、あらゆる規格に対応し、あらゆるプログラムも、脳内の自立翻訳ソフトが君の望むプログラムへと、変換してくれる」
 こりゃすげー。電脳空間じゃ敵無しだぜ。しかし、世の中そうそう美味い話なんてモノは無い。
 「で?日本政府は、しがないウイルス屋に無理矢理最強の剣を与えて、何をさせようってんだ?」
 「分かってきた様だな」
 周防は、また葉巻きをもてあそび始めた。野郎に焦らされるのはご免だぜ。早く言えってんだ。
 「君には、人助けをしてもらう」
 お出でなすった。人助けだと?日本政府が助けたいってのは、何処のお偉いさんだ?しかも、俺はさっきまで其処等のアンちゃんだったんだぜ。周防は、俺が理解するのを待ってから続けた。
 「君が助け出さなければならないのは、現総理大臣だ」
 なんてこった!何回、言やいいんだよ。俺は、早速プラスチックケースを開け、一つのチップを取りだし後頭部のスロットにはめ込んだ。ラベルには、「精神安定」とあった。ありがたい事にチップは、素早く自分の仕事をしてくれた。


 
ー小説版ー真相回路
素晴らしい作品を以って僕にアイディアを与えてくれた ジョージ・アレック・エフィンジャーに